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長い授業が、延々と続いている。
先生の姿が、まるでスクリーンの向こうにあるかのように、遠く見える。
その声も、どうしても聞き取り難い。ふわふわと浮かぶ、綿帽子のような声だと、何となく考えている。そう考えながら、声をなんとか追おうとしていた。
黒板が、妙に鮮やかな緑色に見える。それが、とても大きく感じる。午後の陽射しのせいなのか、それともこの眠気のせいなのか。
柔らかく、油の匂いがする。教室の木の床に沁みた、油の匂いだ。頬づえをついてその匂いを追っていると、呼吸が、静かに深くなるようだ。気持ちが穏やかに落ち着くというのは、こういうことなのかと思う。
そうして、眠気と闘いながら、ふと床を見ると、小さな節穴から一本、細い紐が出ている事に気付いた。
一本とはいうものの、実際には二本の紐をねじり合わせた、白いロープである。それが、節穴から「ちょん」と出ている。
私は、ちょっと足を掻く振りをして、そっとその紐を手に取った。どことなく、ひやりとした手触りだった。そうして、私はその紐をゆっくりと引いた。
一メートル、そしてさらに一メートル。だが、いくら紐を引いても、その紐が尽きることが無い。私は困ってしまった。どうしても、先生や級友には見つかり たくないと思った。それで、手に抱えきれなくなった紐を、私はそっと、お腹のところから、スカートの中に滑り込ませた。スカートは長くて、べったりと床に 届いているから、多少なら見つからないと思った。本当はもう、紐を節穴から引き出すのはやめるべきなのだと思ったが、この紐の先にあるものが一体何なのか も気になったし、加えて、ここで引き出すのをやめると何か恐ろしいことが起こりそうな気もだんだんとしてきて、どうしてもやめることが出来なかった。
紐は、いつまで経っても途切れることなく、するすると節穴から出てくる。私は、足で一生懸命に、紐をスカートの中に止めておこうと努力している。これだ け動揺していれば、誰かが気付くだろうと思うのだが、どういうわけか誰も私に関心を払おうとはしない。授業は淡々と続く。先生の姿が、私には益々遠く見え る。
窓の外から、アブラゼミの鳴き声が聞こえる。
耐え難いほど姦しく、私の耳の中で響く。
私の足に、つるつると、汗が流れるのを感じる。
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